01 ジンとした痛み
ふと、全てが面倒になってしまった。
疲れていたのかもしれない。件の試験から今まで、色々なことがありすぎたから。
そして驚くべきことは、その出来事全てが一人の男を中心に巻き起こったものだということ。電話なんて毎日来るし、メールに至っては毎時間のように着信があった。(自分がそれにいちいち何らかの反応を返していたと言うことが一番の驚きだけれど)
何回かオフの日に出かけもしたし、実家に招いたこともあった。家族も仕事も関係なく、他人と食事をしたり、殺し以外の目的で街を歩くのも、うんと優しい声で、愛を囁かれるのも、何もかも、初めてのことばかりだった。
さすがに最初のうちは戸惑ってばかりだったけれど、試験中とはうって変わって、あの男は優しくて、綺麗な笑顔を見せるものだから、時がたつにつれてすっかりほだされてしまった
彼曰く、オレは少しばかり顔に表情が出るようになったらしい。だが、そのことについてあまり実感はなかった。そのかわりというわけではないけれど、自分自身が結構な偏食家であるということは分かった。振舞われる料理はどれも美味しかったけれど、どうしても食べれないものが結構あって、それを残念に思うことが多々あったから。
けれど、やはり、そんなものは自分にとって非日常的であることに変わりはなくて、だからそう、きっと疲れてしまったんだ。
そして、その一瞬の気の緩みが惨事を引き起こすと言うのは物語の定石で、気がついたとき、オレの眼前は真っ赤に染まった。
意識が飛ぶ寸前、脳裏に、あの男の眼差しが浮かぶ。
ありったけの愛情と優しさと、どこか憂いを含んだ瞳。
切り裂かれた傷よりも、軋む胸のほうが、痛かった。
(ごめんねヒソカ、オレ、もう、何がなんだか分からない)
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